「モノグラフ」第19号=「個別研究篇」Ⅳができ上がりました。これには森章司の「研究ノート」①から⑨までが掲載されています。今までお送りさせていただいている方々には、近日中にお届けできると思います。
「はじめに」と「目次」をそのまま掲載しておきます。
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はじめに
「モノグラフ」第19号を発行する運びとなりました。第1号を発行したのは平成11年7月ですから、それから満15年が経過したことになります。15年の間に19冊の研究報告書を発行できたというのは、自分たちでいうのは恐縮ですが、こじんまりした研究会としてはよくやっているといってよいでしょう。
なおこの研究は平成4年に出発しましたから、それから数えると満22年を経過したことになります。こじんまりとして個人的な縁につながった研究会であったがゆえに、これほど長く1つのことに打ち込めたのかもしれません。
この研究報告誌は「原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究」という特定の限られたテーマを扱うという意味で「モノグラフ」を称していますが、これを「基礎研究篇」と「個別研究篇」それに「資料集篇」の3つの内容に分けています。今号は「個別研究篇」の4冊目となります。
今までの19冊の内訳は
「基礎研究篇」が第1号、第6号、第7号、第13号、第14号、第16号、第17号、第18号の8冊
「資料集篇」が第2号、第3号、第4号、第5号、第8号、第12号、第15号の7冊
「個別研究篇」が第9号、第10号、第11号と今号の4冊
となっています。
原始仏教聖典の記述から、釈尊の生涯と釈尊教団の形成史をできれば「年表」にまとめたいというわれわれの悲願からすれば、釈尊や仏弟子たちの事績の年代、あるいは寺院建立年代などの推定研究を内容とする「個別研究」の冊数が大半を占めていてもおかしくないはずですが、実は今までに4冊、5分の1弱しかないということがこの研究の特徴を雄弁に物語っているといってよいでしょう。
あらかじめ資料の取り扱い方と研究の方法論を設定し、その上に立って聖典の記述を「資料集」として収集・整理し、そしてこれら聖典の記述を読み解くために、その根底にあるサンガのあり方やその運営制度、釈尊と仏弟子たちの日常生活、サンガの年間行事や遊行のあり方、あるいはその背後にある社会、文化、経済や家族制度などの「基礎研究」に力を入れてきたからです。
ところで今回の「モノグラフ」に掲載した論稿は、そのすべてが【論文】ではなく【研究ノート】となっています。実は聖典には、釈尊や仏弟子たちの事績の年代や寺院建立年代などについての具体的な記述はほとんどありません。そこで状況証拠を固めた上で、かなりの部分を推測で補わなければならないわけですが、その状況証拠固めや推測が恣意的にならないように基礎研究が必要だったということです。しかし今号に取り上げたテーマについては年代を示唆する記述がさらに少なくなり、ますます推測の範囲が拡がって、論文と称するには忸怩たるものがあったからです。
学問的な態度としては、判らないことは判らないままに留めておくべきかもしれません。しかし今までの研究によって、聖典の編集者たちがもっていたであろう「釈尊の生涯イメージ」と「釈尊教団形成史イメージ」を再構築するというそのイメージがかなりはっきりしてきたと自負していますので、ここで引き下がっては画竜点睛を欠くと考えて、あえてこれを「研究ノート」としてまとめることにしたわけです。今号の論稿担当者はすべて森章司ですが、このような一種大胆な試みは、研究会の代表でなければできなかったということです。
このような性格のものですから、さまざまなご意見が生じようかと思います。学界諸賢の皆さまには、この研究の大過なからしめんがためにできるだけそれをお寄せいただきたいと存じます。
なおいつもの繰り返しになりますが、中央学術研究所の物心両面にわたるご援助に衷心から謝意を表します。
平成26年8月19日
釈尊伝研究会代表 | 森 章司(東洋大学名誉教授 博士・文学) |
会員 | 金子芳夫(中央学術研究所研究員 修士・文学) 岩井昌悟(東洋大学准教授 博士・文学) 本澤綱夫(東洋大学大学院修了 修士・文学) 石井照彦(佼成図書文書館 修士・文学) |
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目 次
はじめに ............ ⅰ
【研究ノート1】釈尊のアンガ(Aṅga)国訪問年の推定 ............ 003
【研究ノート2】ジーヴァカ(Jīvaka)の諸事績年代の推定 ............ 045
【研究ノート3】詩人ヴァンギーサ(Vaṅgīsa)の生涯 ............ 079
【研究ノート4】4人のプンナとそれぞれの事績年代の推定 ............ 099
【研究ノート5】アングリマーラ(Aṅgulimāla)帰信年の推定 ............ 121
【研究ノート6】ニガンタ・ナータプッタ(Nigaṇṭha Nātaputta)死亡年の推定 ............ 135
【研究ノート7】東園鹿子母講堂(Pubbārāma Migāramātupāsāda)寄進年の推定 ............ 169
【研究ノート8】釈迦族滅亡年の推定 ............ 179
【研究ノート9】「涅槃経」の遊行ルート
−−特にガンガー河とガンダク河の渡河地点について−− ......... 201