5月29日(水)に臨時研究会を行いました。「釈尊伝研究会」としては第17回目の研究会です。前回は時間不足になって、いくつかの研究課題の検討が消化不良のまま残されたからです。
今回は主にメンバー各自の担当テーマについての討議を行いました。
本澤綱夫、岩井昌悟は"Buddhist Monastic Life"の和訳を担当していますが、元著者からの翻訳許可を得るために今までずいぶん時間を浪費してきたのに埒が明かないので、翻訳とは別の方法で、我々独自の『仏教の僧院生活』を書く方針に切り替えました。
その1つとして、すでにかなりのところまででき上がっている「パーリ・漢訳対照『律蔵』規定便覧」を仕上げるという案が出されました。これは「資料集」ということになり、読み物ではありませんが、翻訳よりはよほど学問的価値が高くなると思います。とはいいながらこれも簡単にはいきそうもないので、今までの翻訳作業も生かせるよりよい対案を考えることになりました。
金子芳夫は「原始仏教時代の通商・遊行ルート」(仮題)を担当していますが、データ収集が終ったので、いよいよルートの検討に入ります。
データの説明を受けながら、さっそくガヤーからバーラーナシー(ベナレス)に通じる直線的なルートがあったのであろうかという疑問が呈されました。現在はコールカタからの国道2号線がガヤーの少し南を通ってベナレスまで通じていますが、データにはガヤーとバーラーナシー(ベナレス)をむすぶ遊行記事は「初転法輪」のための遊行ケースを除くとほとんどないからです。あるいは釈尊はいったんヴェーサーリー方向に向けて北上して、現在のパトナ近辺からガンジス河沿いにバーラーナシーに行かれたのかも知れません。
このようにこれから地図上にデータ数を加味した通商・遊行ルートを書き込んで、地形や現在の道路事情なども勘案しながら、実際に存在したであろう通商・遊行ルートを検討することになります。
森章司は「サンガと律蔵諸規定の形成過程」(仮題)を担当しています。本稿は現在のところ、
【1】律蔵の体系
【2】具足戒の種類と名称
【3】善来具足戒法の制定と帰依の対象としてのサンガ(僧宝)の成立
【4】三帰依具足戒法の制定とサンガ祖形の成立
【5】十衆白四羯磨具足戒法の制定とサンガの成立
【6】受具足戒資格審査項目(遮・難)の制定
【7】摩訶迦旃延(Mahākaccāna)の生涯と持律第五白四羯磨具足戒法の制定(地方サンガの成立)
【8】二部僧白四羯磨具足戒法の制定と比丘尼サンガの成立
【9】ヴェーランジャー(Verañjā)での雨安居と波羅夷罪第1条の制定
【10】波羅夷罪第2・3・4条の制定
という構想で執筆が進んでいますが、その草稿がほぼ完成したので、最後の「まとめ」を報告しました。これからこの論文が典拠としている元テキストの確認作業などを中心として、完成原稿に仕上げる作業に入ります。
できれば「通商・遊行ルート」論文と併せて、「モノグラフ」第18号として刊行したいと考えています。