釈尊伝研究会としては第11回目の定例研究会を6月20日(水)に行いました。だいぶ時日が経ってしまいましたが、遅まきながら報告しておきます。
研究員が分担している研究テーマの進捗現状は下記のとおりです。
本澤綱夫:Mohan Wijayaratnaがフランス語で著し、Claude Grangierと Steven Collins が英訳した"Buddhist Monastic Life--according to the texts of the Theravāda tradition"からの日本語訳を、「『中央学術研究所紀要』モノグラフ篇」の1冊として刊行するための準備を進めています。4月の研究会報告にも書きましたが、註の形で漢訳の情報を付け加えたり、われわれの研究成果に照らし合わせて、著者の思い違いや間違いなどを訂正するなどの付加価値をつけることになっており、これには釈尊伝研究会の全メンバーが協力することになりました。8月中に2泊3日の合宿研究会を行って集中的に作業します。
岩井昌悟:勤務する大学の学務が忙しくて、担当している「ジーヴァカ資料集」の作業は進んでいないということです。そこで当分は本澤の翻訳作業をチェックしてもらうことにしました。複数の目を通した方がよりよい翻訳になりそうなので、どのように作業するかを2人で相談してもらうことになっています。
金子芳夫:「原始仏教時代の通商・遊行ルート」を原始仏教聖典から探るという作業を進めています。今のところ釈尊や仏弟子たちの2点間の移動記事を収集しています。この2点間を細かに地図に書き込んでいけば線としてつながり、これがルートを表わすはずです。この先には例えば王舎城からヴェーサーリーに行くルートの、ガンジス河渡河地点はどこであったかなどの地理学的な細かな検討が必要になってくるでしょうが、期待していただいてよい成果が出るはずです。
森 章司:内部資料に留まっている「釈尊および釈尊教団史年表」と「釈尊年齢にしたがって配列した原始仏教聖典目録」を公刊するために、その材料となっていたものを改めて【研究ノート1】として、「釈尊と仏弟子たちの事績の年代推定」という題目のもとに執筆中です。
この総合研究が「研究ノート」という形で研究成果を報告するのは初めてのことですが、これは今までの論文とは違って「推定」の要素が格段に高まっているためです。もちろんわれわれとしてはできるだけ推定を避けて、原始仏教聖典や注釈書などの記述を拠り所として、厳密な方法論のもとに学問的ないしは科学的に論を進めたいのですが、いかんせん本稿で扱うようなさまざまな事績については、原始仏教聖典や注釈書などの記述が絶対的に乏しいからです。
だからといって「推定」を避けて、「分からない」ところは「分からない」ままに判断を停止すると、いつまでたっても「釈尊の生涯イメージ」や「釈尊教団形成史イメージ」が再構築できません。それではかなりの研究成果を上げていると自負しているこの研究の総仕上げができないと考えて、あえて「研究ノート」という形でまとめることにしたわけです。
現在原稿ができ上がっているテーマは、「アングリマーラ(Aṅgulimāla)帰信年」「東園鹿子母講堂建設年」「ヴェーランジャー(Verañjā)での雨安居年」「摩訶迦旃延(Mahākaccāna)の生涯と五衆白四羯磨具足戒法の制定年」「4人のプンナとそれぞれの事績の年代推定」などです。今はこのように個々の事績の年代推定を行っている段階ですが、最後にこれらを総体的に関連づけて検証し、矛盾や不合理が見いだされなければ完成ということになります。
まだまだ先になりますが、これが終了した時点で、いよいよ新しい釈尊伝と釈尊教団形成史の執筆にとりかかることになります。おそらく同時に改訂版の「釈尊および釈尊教団史年表」と「釈尊年齢にしたがって配列した原始仏教聖典目録」も公刊することになるでしょう。