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ニガンタ・ナータプッタ 尼乾陀 尼乾陀若提子 尼揵子 尼揵親子 ジャイナ教 六師外道 チュンダ沙弥 パーヴァー |
本稿はジャイナ教の始祖とされるニガンタ・ナータプッタ(Nigaṇṭha Nātaputta)の死亡年を考察したものである。
これについては、たとえば中村元著『インド思想史 第2版』(岩波書店)では、ニガンタ・ナータプッタの死亡年を「(世紀前372年ころに)72歳で寂した」としている。一方ゴータマ・ブッダは「(前383年ころに)80歳で入滅した」としているから、ニガンタ・ナータプッタは釈尊より10年ほど後に没したことになる。また早島鏡正・高崎直道・原実・前田専学著『インド思想史』(東京大学出版会)も、「ニガンタ・ナータプッタはブッダより20歳年少(前444ころ生れ)で、仏滅後10年に72歳で亡くなっている」としている。
これはジャイナ教の伝承やスリランカで作られた仏教史伝承などをもとに推定されたものである。しかしながら原始仏教聖典の伝えるところでは本論中に紹介したように、疑う余地もないほど明確にニガンタ・ナータプッタは釈尊(ゴータマ・ブッダ)よりも先に没したとしている。
われわれの「原始仏教聖典資料による釈尊伝の研究」は、原始仏教聖典の編集者たちがもっていたであろう釈尊の生涯イメージと釈尊教団形成史イメージを再構築するというのが目的であり、したがって原始仏教聖典資料を研究の材料としている。よってここで問題とするのは、原始仏教聖典ではニガンタ・ナータプッタは釈尊よりも前に入滅したとされているが、それは釈尊の何歳の時であったか、ということである。